ここ何年もの間、夏の時期にウィリアム・バトラー・イェーツの作品と向き合う習慣が身についてしまった。彼の作品からは世紀末のロンドンやダブリンの“光と闇”が透けて見えてくる。その独特ともいえる彼の心性描写は、一陣の風となって、読者である私の身体を突き抜けていくかのようだ。
イェーツを読み終わった後、そのイェーツの心性と共鳴するような素晴らしい写真紀行本と出会った。武部好伸氏の10年間に及ぶ巡礼をまとめた『ヨーロッパ「ケルト」紀行』の上下巻である。ケルトというキーワードから手繰り寄せた文化や歴史のすべてが、まるで時空を超越して瑞々しく浮かび上がってくるかのような世界がそこにあった。
イェーツとケルト。しばし、幽玄な空間を旅したような気分を味わったのち、何故か、レッド・ツェッペリンの名曲“天国への階段”が頭のなかを駆け巡った。
イギリスの伝説的なバンドであるレッド・ツェッペリンは、2007年12月に再結成し、アトランティック・レコードの創始者であったアーメット・アーティガンのトリビュート・コンサートの舞台に立ち、衰えることのない切れ味の鋭いパフォーマンスを披露して喝采を浴びている。その夜も演奏された“天国への階段”は、1971年に発表された彼らの4枚目のアルバムに収録されている。実はこのアルバムのジャケットには、バンド名もアルバム・タイトルもなく、一切の文字を排除した斬新なデザインが話題を集めた。しかも、このアルバムのデザインは、のちにさまざまな憶測を呼ぶ。例えば、インナースリーヴに印刷されていたルーン文字を含む4つのシンボル。4人のメンバーをシンボル化したものだともいわれているが、その謎は残されたままである。さらにアルバム・ジャケットの内側には、パメラ・コールマン・スミスが制作したタロット・カードの9番目、「隠者」がモチーフとして使われていた。このパメラはイェーツと出会い、彼の勧誘で魔術的秘密結社『黄金の暁教団』に入会している。
当時、彼らはメディアにおける過剰な露出を嫌い、バンドやその音楽が疲弊してしまうことを極端に恐れていた。そのある種の秘密主義がファンの憶測を呼んだという側面もある。しかし、ヴォーカリストのロバート・プラントがケルト神秘主義に深く傾倒し、ギタリストのジミー・ペイジがオカルティズムとの関係を指摘されていたことも真実であり、レッド・ツェッペリンの音楽をかみ砕いて理解しようとするとき、その音楽の背景にある精神性をどのように読み解くのかが鍵を握る。
“天国への階段”は、英国的な繊細さと幻想的な歌詞が美しく調和した曲である。圧倒的な表現力を放ちながらクレッシェンドで頂点を極めていくギター・ソロが、この曲を私にとって特別なものにしているのだ。トラッド・フォークの息吹と、ケルト神秘主義のエッセンスを取り込みながら、この曲は聴くものを悠久の夢幻世界へと誘っていくのである。

音楽評論家・DJ