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20世紀の歴史は乗り物の歴史であるとも言えると思う。わずか100年の間に汽車、電車、自動車、新幹線、リニアモーターカー、飛行機、スペースシャトル、と無数の乗り物が現れたのが20世紀であり、その乗り物によって世界は小さくなり、21世紀になった今では「グローバル」という言葉が当たり前になった。この歴史の原動力となったのは「速いものをより速く」ということ、つまり「GoodをBetter」にということなのである。
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ところで今月のテーマであるベン・E・キングとは誰なのだ?と思っている方もいるかも知れない。今までこのコラムで紹介したミュージシャン達に比べると、正直、地味な名前である。しかし、彼の代表曲を聴けば誰もが「ああ!」と分かるに違いない。多くの人はその歌を一緒に口ずさむことさえできるだろう。その曲とは「STAND BY ME」。1961年に発表されて大ヒットし、1975年にはジョンレノンのカバーバージョンで再ヒットし、1986年には同名の映画と共に三度目のヒットを記録した、紛れもなく音楽史上のベストヒットの一つであり、世界で最も多くのミュージシャンにカバーされている曲の一つでもある。その一つの「Best」に達した彼が表題の言葉を語っている。宝石は磨いてこそ初めて宝石になる、とはよく言うけれど彼が言うのは迫力が違う。
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最初のアイディア、メロディやリズムがGoodでなければ始まらない。それに技術と知識を注いでBetterにし、もうこれ以上Betterにならない、すなわちBestだ、というところまで持っていく。これが音楽作りの常である。では音楽におけるBestとは何なのか。例えば陸上選手なら100mを何秒で走ればベストタイムである、という基準が明確にある。しかし音楽に限らず表現にはその基準がない。故に表現者は常に「これはベストなのか?」という問いに直面し続けなくてはならない。とは言え、いつまでもその問いにつき合っている暇もない。表現は発表されなくてはならないから、どこかで「これがベストだ」と決めなくてはならない。
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乗り物の歴史を見れば18世紀までのBestは馬だったろう。その後、汽車や電車、飛行機とBestは移り変わった。その速度が光速に至ることでもない限り普遍的なBestはない。表現もそれと同じこと、今その時の最善を尽くすことがBestなのであり、「普遍的なBestに至るまで待ってくれ」なんて言うのは「新幹線は光速で走れるようになるまで実用化しません」と言うようなものである。馬車が改良されて汽車になり、複葉機が改良されてジェット機になったように、まず一つのBestが提示されれば後からそれをさらにBetterにする者が必ず現れる。それが「STAND BY ME」であればジョンレノンであり、またあの映画でもある。すべての始まりになる最初のBestの責任は重大なのである。
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では後人にBetterをたくさん提示された以上、もうベン・E・キングの歌う最初の「STAND BY ME」には価値がないのか。そんなわけはない。それはむしろ数多のBetterに囲まれてその価値を不動のものとしている。飛行機で行けば早いのに、わざわざ時間のかかる船旅をする人がいる。自動車を持っているのに乗馬を趣味とする人がいる。飛行機はいつか新たな移動手段が発明されたら消えてしまうことがあるかも知れない。しかし、より便利な移動手段が発明されたのにも関わらず、今も愛され続ける乗馬は今後も決して廃れることはないだろう。たくさんのBetterに囲まれて、それでも輝き続けること。それこそが「More than Best」、真に価値のあるものの証明である。


Takemaro