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あの大震災で、それまであまりに当たり前だった電力のありがたみを痛感した。電力は生まれた時からそこにあり、スイッチ一つで部屋が明るくなったり暖かくなったりするのも当たり前だった。しかしエジソンがニューヨークに世界初の電力供給網を作ったのは1886年のことだから、それ以前はそんなことは魔法でしかなかったのである。わずか100年の間にその魔法は世界のあらゆる所に浸透し、計り知れない影響を与えて来た。もちろん音楽の世界もその例外ではなく、スタン=ゲッツが残した表題の言葉がそのことを端的に物語っている。ロックと言えば何と言ってもエレキギター。当然、電力がなければ始まらない。
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ところで、スタン=ゲッツって誰?という人もいるかも知れない。先月に引き続いて少しだけ地味な名前のミュージシャンである。しかしこれも先月に引き続き、彼の代表曲、イパネマの娘を聴けば誰もが「ああ」と頷くに違いない。クールジャズの第一人者であった彼が、ボサノヴァの第一人者であったカルロス=ジョビンをカバーした名演である。
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さて、技術革新が音楽の歴史を変えたのは何も電力に限ったことではない。古い例を挙げればトランペットを始めとする金管楽器の起源をずーっと追っていくと、石器時代と青銅器時代の境目までたどり着いてしまう。金属加工技術が人類にもたらした影響は電力に勝るとも劣らないだろう。最も新しい例を挙げればシンセサイザーを始めとする電子楽器が一気に普及したのは1964年にトランジスタを用いて小型化に成功した時である。トランジスタが社会にもたらした影響と言えば、筆頭に挙がるのがコンピュータである。トランジスタのおかげでコンピュータは小型化し、パーソナルコンピュータ、つまりパソコンとして今や日常の一部に溶け込んでいる。そしてそのパソコンが世の中に今も現在進行形でもたらし続けている影響と言ったら枚挙に暇がない。パソコンを背景に登場したSNSが、ジャスミン革命をはじめ相次ぐ民主化革命の契機となったのは記憶に新しい。
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社会を大きく動かした技術革新の小さな一片、「遊び」の部分が音楽を発展させて来た。そもそも音楽自体が「音を楽しむこと」、一つの遊びだとも言える。電力はエレキギターの音を鳴らすために発明されたわけではない。しかし1936年にチャーリー=クリスチャンという人が「その電力をギターに使ってみたら面白いかもしれない」と、電力とギターを結びつけて「遊んだ」。これがエレキギターの始まりである。オルガンの起源は2000年も前に遡るが、これはもともと楽器ではなく、空気が一定の圧力で流れていることを音で確認するための装置だった。しかし、その装置の音で「遊んだ」誰かがいて史上初の鍵盤楽器となった。弦楽器の起源を辿るとそれは弓である。狩りに使うあの弓である。きっと狩りの時に弦を弾いて音を鳴らして「遊んだ」誰かがいたのだろう。「こうしたらもっといい音が出る!」とその「遊び」が重なって今の弦楽器になった。 そして音楽それ自体ももちろん遊びの性質を持っている。イパネマの娘ができたのも、考え方によってはスタンの「この新しいブラジル音楽を自分が吹いたらどうなるんだろう?」という「遊び」なのである。そういう建設的な「遊び」が今も昔も音楽を変化させ続けている。作曲しながらついつい難しい顔になってしまう自分に「遊び、遊び」と時々言い聞かせては肩の力をふっと抜く。


Takemaro