SUPER GT GUIDE 対戦ガイド

華やかなレースを支える、工場での地道な作業

華やかなレースを支える、工場での地道な作業 機械いじりに興味のない人には、もしかしたら退屈な話になるかもしれないが、レーシングカーを走らせるうえでとても重要な、メンテナンスの話をしよう。
我々がサーキットで手に汗握るバトルを見られるのは、操るレーシングドライバーたちの卓越したドライビングテクニックがあるからなのだが、彼らが安心して思いきり「攻めた」走りができるのは、メカニックたちが完璧にレーシングカーをメンテナンスしているから。チームに対する信頼感が、更に数cmドライバーにアクセルを踏みこませる力になっている。余談になるが、時には300km/hというスピードでバトルを展開するレーシングドライバーの中には、ジェットコースターやフリーフォールといった絶叫系アトラクションが苦手なドライバーもいる。その理由に多いのが、「本当に安全かどうか、信用しきれないから」。もちろんああいったアトラクションもしっかりとメンテナンスされているものだが、やはり普段顔の見えるメンテナンスの施されたマシンに乗り慣れていると、安全に人一倍慎重になるのかもしれない。

さて、それではメンテナンスのお話。
レースを終えてそれぞれのガレージに戻ってきたレーシングマシンは、次のレースまでの日数にもよるが、大体翌日から解体される。これは、レースで接触やクラッシュといったアクシデントに遭う遭わないに関係なく、ほぼバラバラに解体されるのである。
傷一つないのに、解体するのはなぜか?
レーシングマシンは、「速く走ることを追求したクルマ」である。速さを追求すれば、パーツの使用限度が短くなる。とすれば、外側から見て一つも傷がなかったとしても、中を開ければクラック(ひびのこと)が見つかる可能性がある。だから、レース後はほぼ毎回、車体をバラバラにしてパーツを一つ一つチェックするのだ。
目視では見つからないクラックもあるので、大体は「レッドチェック」と呼ばれる方法を使う。赤い溶液に浸し(もしくはかける)、ひびの入っている部分だけ溶液がしみこみ赤く染まるという方法だ。よく、小学校の歯科検診などで行う、磨き残しが赤く染まってチェックできる、アレと要領は一緒である。
クラックが見つかれば、そのパーツは交換もしくは修理しなければならない。ほんの小さな傷だからと思って放置するわけにはいかない。レーシングカーは、スピードに比例して車体に疲労がかかる。高速バトルが続けば、その小さなヒビから大きな事故につながる可能性だってあるのだ。
華やかなレースを支える、工場での地道な作業 また、レッドチェックをしないパーツでもすり減りをチェックし交換しなければいけない。ボルトやナット一つとっても、溝や山がすり減っていたら交換する。すべてドライバーの安全のため、速く安全に走るためである。
ちなみに、パーツの中には外す隙間のないぐらいキッチリとハマりあったものもある。このようなパーツをどう外すかというと、高温のオイルの中に入れて、部品自体を膨張させることで隙間を作って外すのである。ときには60℃、70℃といった温度のオイルに手を突っ込んで作業しなければならない。過酷である。

全てのパーツチェックが終われば、再びマシンの形に組み立てる。もちろん、クラッシュや接触によりマシンの外側に傷ができてしまった場合は修理・加工してからだ。色とりどりのカラーリングもはがれてしまった場合、カラーフィルムを貼りなおす必要もある。通常は専門業者に発注するが、間に合わなければ自分たちで貼りなおす。この作業、実はサーキットで大きなクラッシュが発生した場合にピット裏で時たま見かける作業でもある。
組み立て作業は、スムーズに行けば何日もかかる作業ではないが、マシンセッティングに悩むエンジニアを抱えていると、作業が難航する。パーツのアップデートが遅れれば、それも待たねばならない。それゆえに、組み立て作業はギリギリのスケジュールになる、というチームもあるとかないとか……。
当然、組み立て前にパーツはきれいに掃除しておく。何十もあるホイールも一緒に磨く。寒くても、冷たい水できれいに磨く。冬場の水仕事の辛さは、女性には分かってもらえるかと思う。過酷である。
かくして、きれいに掃除された(修復された)レーシングマシンは、各チームのトランスポンダーに載せられて、次の戦いの舞台へと運ばれていく。

と、レースとレースのインターバルにクルマがどうなっているか、を簡単にお話しした。もちろんこの間にテスト走行やイベントでの車両展示などが入ることもあるため、メンテナンス作業に何日も何十日も費やすわけではない。通常の作業であれば、1~2週間もあれば十分に、次のレースに臨める状態になる。
となると、その他の時間――たとえばインターバルが1カ月近く空く場合にチームが何をしているかというと、意外とこれが忙しい。
ドライバーはイベントに駆り出され、エンジニアは次のセッティングを決めるのにいくら時間があっても足りない。チームマネージャーはスポンサーへの報告書製作に追われ、メカニックはといえば、タイヤ交換の練習を積んでいる。GT500では、1本のタイヤを交換するのに約5秒かかる。これをコンマ1秒でも速くできるよう、練習を積んでいるのである。SUPER GTに参戦しているチームの中には、メカニック専用のトレーナーをつけているところもあるというから、どれだけこの練習が重要とされているかが分かっていただけると思う。
その他、メカニックはサーキットで使うツールのメンテナンスや工作をしていることもある。たとえば、タイヤを運ぶときに使うキャスター付きの板や、パーテーションに装着する棚、ドライバーがマシンの中でも見やすいようにとモニター台まで作ってしまう。一般的には見かけないようなツールの多くがチームの手作りなので、それぞれ個性があって見比べると面白いかもしれない。
話が逸れてしまったが、華やかで迫力のあるレースにするためには、インターバルの地道な作業が欠かせないこと、少しでもご理解いただければと思う。

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